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バードイシュルで出会った青年

ハンガリーでの長湯のせいか、この旅で初めて体調を崩してしまった。幸い、鼻と喉の痛みに耐えながら、大騒ぎするほどには至らなかった。しかし、せっかくの旅行で数日間寝込むほど辛い話もない。
  オーストリアの古都ウィーンから西へ、音楽の都ザルヅブルグに向かった。モーツァルト生家、映画サウンドオブミュージックの舞台、形や色合いといい、お洒 落なデザインの看板を連ねるショッピング通り、山の上にそびえ立つザルツブルク城、アルプス…音楽と芸術と自然がこの街に詰まっている。

街のユースホステルで一泊した翌日、僕の体調は大分良くなっていた。朝から雨が降っていて、こういう日は何もせずに宿でゆっくりと過ごしたくもなったが、とにかく外に出た。行き先は、すぐに決まった。バードイシュルという小さな町である。
 中央駅から乗った列車の中で、若いオーストリア青年と同席になった。この列車はバードイシュルに行くかどうか尋ねると、幸運にも、その青年はバードイシュルに住んでいたのである。

「途中で乗換えが必要だけど、これから帰る所だから一緒に付いて来ればいいよ。良ければ、少し案内するよ」

と、 親切なその青年の名前は、クリストフ君といった。実に、西洋的な名前ではないか。クリストフ君は、若さに満ち溢れていた。長い金色の髪が紺色のニット帽の 後ろからさらりと流れている。赤いカーディガンは、女性的というか男の色気が漂っていて、言ってみれば彼の目の前にいた僕とは正反対であった。その甘い ルックスはきっと日本人女性たちの虜になるだろう。
  バードイシュルまでの途中、列車の乗換えに少し時間を要した。その間、列車の中でクリストフ君と色々な話をしていたわけだが、じつはお互いにあまり英語が 上手く話せず、理解のために少々時間が掛かった。そして僕はこの時、無性に腹が減っていた。すると、素晴らしいタイミングでクリストフ君が何やら菓子パン を取り出しはじめた。僕がそれを羨ましそうに見ていたのか、「食うかい? 安いパンだけど」といって笑いながら半分ちぎってくれた。僕たちは、英語をペラ ペラ話して奥深い所まで語り合うことができなかったにせよ、こういう小さな行為や振舞いが異文化圏の人間同士の気持ちを近づける最高の瞬間だと今でも思っ ている。

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